青春カムバック
先日買ってきた漫画を読み終わったのでその感想でもと。今回は福地翼先生のサンデーの連載、「サイケまたしても」と、相田裕先生のビッグコミックスピリッツの新連載「イチゴーイチハチ!」、両作品ともに一巻までの感想です。
どちらも小学館の打ちだしてきた大型連載だと思っております。今年出た作品の中で、この二つの安定感はすさまじいものがあります。浮ついた物語ではない。逆に言えばはっきり言って地味な作品でもあります。
しかし確かな物語がそこにはあります。そしてどちらにも共通の要素がもう一つありまして、それは青春の物語であるということです。正確に言えば、青春を取り戻す話と言ったら良いのでしょうか?
まぁ、詳しくは個別の感想の方で。
「葛代斉下(くずしろさいけ)は、将来の夢も特別な能力もない、どこにでもいる、ごく普通の中学三年生。
平凡で退屈な毎日を過ごすサイケだったが、ある日、幼なじみの蜜柑が事故で死んでしまう。
絶望したサイケが池に飛び込むと、蜜柑が事故で死んだ”今日”がまた始まった。
蜜柑を救うべく、問題の”今日”を繰り返すサイケだが?」(一巻裏表紙のあらすじ原文まま)
うえきの法則、タッコク!!!の福地翼サンデー13年目の新連載は時間ループ物、しかしミステリーやサスペンスなどではありません。ミステリーのように推論を立てて結果を変えようとしますけど、その手法自体が大事ではない。
ともあれ、要約すれば「何の取り柄もない主人公が幼馴染を死という未来から救うためにあれやこれやと頑張る話」がサイケまたしてもです。
...と、普通のファンタジーなら「主人公の力が超つえーんだぜ!」とか、ループ物なら「主人公の推理能力が高くて!」みたいな話になると思います。でも、なりません。
前述したように主人公のサイケは何の取り柄もなく、平々凡々で将来の夢もなければ日常に退屈しているけれどそれに甘んじる逃避型主人公です。持っているのは「池に飛び込むと今日をやり直す能力」だけ。体に九狐を飼ってもいなければ突然死神にもなりませんし井戸に落ちた先で紫紺の玉を集めることにだってなりません。
人と満足にコミュニケーションを取ることもできず、人には自分から話さない、また向こうから話してくれるようなもの...言い訳ばかり揃えたエクスキューズ塗れの主人公、それがサイケです。
そんな主人公が、人と、自分と向き合っていく物語。サイケは今まで耳を塞いでいた手を、誰に差しだすのか、何のために手を広げるか。特別でも何でもない自分なりに泥にまみれながらもその手で、心で、何かをしようと決意する。そんなカッコよさがサイケの魅力だと思います。
はっきり言って地味な作品ですし、派手さも薄い。華麗なアクション、明晰な頭脳、女の子がたくさん、主人公の過去には大きな陰謀が...!そんな要素は一切ありません。
しかしどこにでもいる普通でただの中学生で、ぶっちゃければ駄目人間な彼だからこそ、その姿、心、涙は胸を打つものがあります。
一巻でメインの話となる幼馴染を死から救うこと自体は、一巻で話が終わります。出てくる要素を綺麗に編んだ漫画でした。
続きがどう続くのか...そこは今後の不安であり、期待するところであり、ワクワクするところですね。
退屈塗れの日常でも心意気次第で青春へと変わる、そんな心地よさのある作品でした。
- 相田裕/イチゴーイチハチ!
イチゴーイチハチ!(1) (ビッグ コミックス〔スピリッツ〕) (ビッグコミックス)
- 作者: 相田裕
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/03/30
- メディア: コミック
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BC『イチゴーイチハチ!』コミックス公式PV - YouTube
GUNSLINGER GIRLの相田裕の新連載は、感受性豊かな思春期真っ盛りの高校生たちの物語。
だいたいの内容はPVが説明してくれています。夢を見つけられない少女と、夢を諦めきれない男の子を中心とした彼らの青春ストーリー。舞台は高校、特に生徒会。生徒会に入った新入生の男女二人が主人公です。
通常、青春ストーリーと言えば部活に打ち込むであるとか、高校生をやり直すであるとか、まず第一条件として何かのめり込むものがあるのが大半でしょう。
しかしこれにはそれがない、ないのがスタート地点なんです。
自分を熱中させるものを探す少女、夢に破れた訳でも追い続けられる訳でもない宙ぶらりんな男の子。これは先ほどのサイケ以上にどこにでもいる思春期の物語です。
はっきり言ってしまえば地味、とんでもなく地味な作品です。漫画的な効果線、非日常などはほぼありません。読んでいてなんか落ち着かないなと思ったら効果線などの視覚的な技法があまり取られていないんです。
連載誌はスピリッツ。対象年齢も考えると納得です。
ならば地味だから面白くないか?それはもちろんNO。
等身大の高校生が誇張なく見られるというのは稀有な経験だと思います。スポーツ男児に立ちはだかる怪我、揺れ動きやすい思春期の心の追い求める夢や目標、もっと言えば充実感。
そう言った精神的なもの以外でも「なぜか生徒会や部室にあるもの」だとか、高校生らしさ(だらしなさや輝く姿等もひっくるめて)を個人、生徒会という組織(システム)を通して一緒に経験できるので、大変地味ではあるけれど真っすぐで手堅い漫画であると思いました。
彼らの青春を手にする、または取り戻そうと頑張るその姿は、思わず背を押したくなるようでありました。
相田さんの作品はGUNSLINGER GIRLの前半部分までしか読んでないのですけど、以前よりずっと丸くなっていて読みやすくなっていると感じます。以前非日常だった相田さんが日常を描く、なんとも突然の転向にはびっくりしましたが今回も面白そうでしたので安心でした。
ここまで二作品の感想を稚拙ながら述べさせていただきましたけど、公式サイトから一話無料で読めますのでぜひぜひ。百聞は一見に如かず!自分の感想よりずっと魅力が伝わるんじゃないかなと身も蓋もないことを思っとります。
この等身大ストレートなこの両作品、かつて子どもだった大人にこそ読んでほしいなと思います。